個人事業主として英会話教室を運営するうえで、経費の範囲を正しく把握することは節税の要です。計上できる経費を漏らせば余計な税金を払うことになり、逆に計上できない費用を経費として処理すれば税務調査で指摘を受けるリスクがあります。
本記事では英会話教室の経費範囲を具体的費目、グレーゾーン、家事按分、税務調査対策の視点で実務的に解説します。
- 経費の基本原則と判断基準
- 英会話教室で計上できる費目一覧
- 経費にならない費目と理由
- グレーゾーンの具体的判断
- 家事按分の計算方法
- 税務調査対策のポイント

経費とは何か
経費の基本原則
経費とは『事業の収益を生み出すために直接必要な支出』のことです。税法上は『事業関連性』と『合理性』の2つが判断基準となります。
- 事業関連性: その支出が事業活動に直接関係していること
- 合理性: 支出額が事業規模に見合っていること
- 証憑性: 領収書・請求書など証拠書類があること
経費計上できる費目
レッスン運営関連
- 教材費(テキスト、ワークブック、教師用マニュアル)
- 書籍代(英語教育関連書籍)
- 印刷費(プリント、配布資料)
- 文具(ペン、ノート、マーカー、ホワイトボード)
- 教室の消耗品(コピー用紙、インク)
ツール・設備関連
- PC・タブレット(10万円未満は一括経費、以上は減価償却)
- Webカメラ、マイク、ヘッドセット
- 予約システム利用料
- Zoomなどビデオ会議有料プラン
- クラウドサービス利用料(Google Workspace等)
- 会計ソフト利用料
- ネット回線・電話代(家事按分)
マーケティング関連
- SNS広告費(Instagram、Facebook等)
- Google広告費
- チラシ・パンフレット制作費
- ウェブサイト制作費・ドメイン代・サーバー代
- 名刺制作費
- 看板・サイン制作費
教育・研修関連
- 研修・セミナー参加費
- オンライン講座受講料
- 資格取得費用(TESOL、J-SHINE等)
- 英語教師向け専門書
- 学会・勉強会参加費
- 研修旅行費(合理的範囲内)
- 保険料(賠償責任保険、施設保険)
- 専門家報酬(税理士、社労士、弁護士)
- 銀行手数料、決済手数料(Stripe等)
- 交通費(レッスン移動、研修参加等)
- 宿泊費(出張時)
- 接待交際費(顧客・取引先)
経費計上できないもの
以下は経費として認められないため、処理から除外する必要があります。
- 個人的な飲食費・娯楽費
- 家族旅行(事業目的でないもの)
- 罰金・反則金(駐車違反等)
- 事業主自身の健康保険料・年金(所得控除で処理)
- 事業主自身の給与(個人事業主は給与計上不可)
- 所得税・住民税
- 家族への贈答(扶養範囲)
個人事業主は『事業主自身への給与』を経費にできません。生活費は『事業主貸』で処理します。

グレーゾーンの判断基準
飲食代・接待費
飲食代は事業との関連性が明確であれば経費計上可能です。
- OK: 顧客(受講者)との打ち合わせ食事
- OK: 取引先との接待
- OK: スタッフとの打ち合わせ飲食
- NG: 個人的な外食
- NG: 家族との食事
接待交際費として計上する際は『日付・相手・場所・目的』を領収書にメモしておきます。
旅費・研修旅行
研修旅行は『事業研修としての実体』があれば経費計上可能です。
- OK: 海外語学研修(研修プログラム参加が証明できる)
- OK: 英語教育学会参加のための出張
- NG: 単なる観光旅行を研修名目で処理
- 判断基準: 旅行日程の50%以上が研修・業務なら経費可
衣服・身だしなみ
基本的に衣服は経費計上困難です。例外は『制服・ユニフォーム』『撮影用衣装』など事業専用と証明できるもののみ。普段着用可能な服は経費対象外です。
家事按分の具体的計算
自宅を事業利用する場合、家賃・光熱費・通信費の事業利用分を按分して経費計上します。
家賃: 事業使用面積/総面積(例: 25%) 電気代: 月間使用時間のうち事業時間の割合(例: 30%) ネット回線: 事業使用時間の割合(例: 50%) 携帯電話: 事業通話・通信の割合(例: 60%)
按分率は合理的な根拠が必要です。面積、時間、使用頻度など具体的な基準で算出し、メモとして残しておきます。
税務調査で問題にならないポイント
- 領収書は7年間保存(法定保存期間)
- 按分根拠のメモを残す
- 事業用クレジットカードと私用カードを分離
- 事業用銀行口座を分離
- 高額経費は事前に税理士確認
- 接待交際費は相手と目的を記録
売上急増、経費率の急変、同業平均からの乖離が調査のトリガーになります。帳簿と実態の一致を常に意識することが重要です。
よくある質問
経費計上のグレーゾーンと判断基準
英会話教室個人事業主の経費計上で最も判断に迷うのが『事業と私用の境界』です。判断基準は『その支出が事業の売上に直接・間接的に貢献しているか』が全てです。『講師の英語力維持のためのNetflix代』は50%按分で経費化できるケースがありますが、根拠を説明できるメモを必ず残してください。税務調査では按分根拠を問われます。
具体的に経費化できるグレーゾーン項目として海外旅行(語学研修目的)、書籍(専門書だけでなく英語関連なら経費可)、映画・配信サービス(教材研究)、カフェ代(受講者との面談)があります。100%経費化ではなく『事業利用割合』を合理的に見積もる家事按分がポイントです。全額落とすと税務署から否認されます。
L先生がハワイ家族旅行を『英語圏での語学研修』として全額経費化し、税務調査で否認。事業関連性を示す資料(研修先の証明、レッスン動画等)がなく、加算税10万円を納付することに。証拠資料なき経費計上は危険です。
按分比率の合理的な算定方法
家事按分の比率は客観的根拠で決めます。自宅兼教室なら『床面積比(教室スペース÷全体)』が最も説明しやすく、家賃や光熱費に適用できます。携帯電話代は『使用時間比』で平日日中の仕事使用を50〜70%とするのが一般的。車両費なら『走行距離比(事業用走行÷総走行)』で算定します。
按分比率を一度決めたら毎年同じ基準で計算してください。年によって割合を変えると『恣意的な経費調整』と疑われます。比率変更する場合は事業形態の変化(教室拡張、引っ越し等)という合理的理由が必要です。
領収書管理と保存ルール
経費計上の前提は領収書の保存です。紙・電子どちらでも可ですが、青色申告なら7年間、白色申告でも5年間の保存義務があります。税務調査で『領収書を紛失しました』は通用せず、経費が認められないリスクがあります。領収書管理のルールを開業初日から決めておきましょう。
実務的にはスマホで撮影→クラウド保存が最効率です。freee・マネーフォワードの領収書OCR機能を使えば、撮影した画像から自動で金額・日付・取引先を読み取って仕訳候補まで作成してくれます。紙領収書は月1回封筒にまとめて年別ファイリングするだけで済みます。
インボイス対応と経費計上
2023年10月以降、仕入先が適格請求書発行事業者でない場合、消費税の仕入税額控除が段階的に制限されます。個人英会話教室の経費の大半(家賃・通信費・光熱費等)は対応済ですが、個人クリエイターへの外注費・小規模な備品購入などは注意が必要。取引先のインボイス登録有無を確認する習慣をつけましょう。
免税事業者なら仕入税額控除の問題は関係ないため、開業初期は気にしなくてOKです。売上1000万円を超えて課税事業者になるタイミングで、仕入先の見直しを実施すれば十分です。過度に早期対応する必要はありません。
経費計上の実践テクニック
経費計上で手取りを増やすには『合法的な節税』と『脱税』の境界を理解することが重要です。家事按分・減価償却・特別償却などは合法節税、架空経費計上・売上除外は脱税。グレーゾーンは税理士に相談して判断を仰ぎ、リスクを取らない運用が賢明です。
経費の『使い道』より『事業関連性』が問われるのが経費計上の原則。例えば高級飲食店での会食も、受講者や業界関係者との打合せであれば『交際費』として計上可能。ただし『誰と・何のために』を記録していなければ税務署は認めません。記録の徹底が経費計上の生命線です。
固定資産と減価償却
10万円以上のパソコン・カメラ・机などは『固定資産』扱いで減価償却します。パソコンは4年、応接セットは5年、机は8年など法定耐用年数に応じて毎年経費化。30万円未満なら『少額減価償却資産の特例』で一括経費化可能(青色申告限定・年間300万円まで)です。
一括経費化の特例を活用すれば、高額設備購入年度の節税効果が最大化されます。パソコン20万円・カメラ15万円を同年に購入すれば、計35万円を一括経費化できるため、所得税+住民税で10万円以上の節税が可能です。
交通費・旅費の経費化
受講者宅への訪問・研修参加・書店での教材リサーチ・業界イベントなどの交通費はすべて経費計上可能です。電車・バスは交通系ICカードの履歴、タクシーは領収書、自家用車は走行距離記録を残してください。旅費日当を自分に支給する規定を作れば、さらに節税効果が高まります。
遠方出張は『旅費交通費+出張手当』として経費化。出張手当は1日3,000-5,000円程度が相場で、実費精算不要で非課税(会社員の場合)。個人事業主も旅費規程を作成すれば同様の扱いが可能です。
経費集計の効率化ツール
freee・マネーフォワード・弥生会計の3大会計ソフトのどれか1つを導入すれば、銀行口座・クレジットカードと連携して自動仕訳ができます。月額1,000-3,000円で経費集計の手間が9割削減。手書き帳簿からの脱却は、個人事業主の時間創出の第一歩です。
経費計上のよくある疑問と判断基準
経費計上の判断で迷ったら『事業関連性の説明可能性』を基準にします。『この支出は事業のどこに貢献したか』『受講者・売上・品質向上のどれに繋がったか』を明確に説明できれば経費計上可能。説明できない支出はプライベート扱いに留めましょう。税務調査で説明できれば、多少グレーな項目も認められます。
『事業専用』と『事業・私用兼用』は計上方法が異なる点に注意。事業専用は100%経費、兼用は家事按分で割合計算して経費化。区別を曖昧にすると税務署から指摘されます。買い物時から『これは事業用』『これは兼用』を意識して分類する習慣が重要です。
- 事業用クレジットカードを分離
- 兼用支出は家事按分比率を記録
- 領収書の裏に用途メモを残す
- 月末に経費カテゴリー別集計
- グレーゾーンは税理士に相談
経費管理の長期視点
経費管理は単年度ではなく複数年度の視点で行うのが賢明。今年経費化できなかった支出が翌年に経費化できるケースもあります。減価償却・繰越控除・特別償却など、複数年にわたる税務メリットを活用しましょう。
経費計上の知識は一生モノの資産。個人事業主・副業・法人運営すべてで活用できます。学習投資として税金・経費の書籍を年数冊読む習慣をつけてください。
経費計上と経営改善の連動
経費計上は『節税』だけでなく『経営改善』にも繋がります。毎月の経費を分析することで、無駄な支出の発見・コスト最適化・投資効果の検証ができます。節税だけを目的とした経費計上ではなく、経営視点の支出管理に活用しましょう。
経費カテゴリー別の月次モニタリングが基本。広告費・教材費・通信費・家賃・消耗品費の推移を見れば、コスト構造の変化が一目瞭然。異常値が出た月は原因を深掘りすることで、無駄遣い発見と改善に繋がります。
経費の勘定科目選定は慣れが必要ですが、間違いを恐れず毎月記帳を継続することが最重要。多少の誤りは後から修正可能で、記帳自体を放置することの方が圧倒的にリスクが高いです。完璧主義を捨てて、『まずやる・後で直す』のマインドで記帳習慣を定着させましょう。
まとめ
英会話教室の経費は事業関連性・合理性・証憑性の3原則で判断します。計上漏れも過剰計上も避け、適正な節税を心がけましょう。グレーゾーンは税理士への確認が最も安全です。
英会話教室の経費で最も見落とされがちなのは自己研鑽費です。英語力維持のためのオンライン英会話受講料、TESOL等の資格取得費用、セミナー参加費、指導法書籍購入費などが研修費として経費計上可能です。年間30〜50万円程度を経費化できるケースは少なくありません。
自宅教室の場合、家事按分の計算方法を正しく理解することが重要です。家賃10万円で全体面積の30%を教室として週20時間使用する場合、面積基準で月3万円の按分が可能です。一度選択した基準は原則として継続使用が必要です。
経費計上できないものとして代表的なのは私的な飲食費です。受講者との会食は接待交際費として認められますが一人での食事は経費にはなりません。証拠書類の保管は7年間が法定義務で、スマホアプリでデジタル保存を推奨します。
英会話教室特有の経費としてコンテンツ制作費があります。オリジナル教材の印刷費、レッスン動画の撮影・編集費用、ウェブサイトのコンテンツ制作費などは全額経費計上が可能です。年間の外注費が50万円を超える場合は源泉徴収義務の有無を確認しましょう。
英会話教室の経費で最も判断が難しいのが、自宅兼教室の家賃按分です。按分割合は教室として使用する面積の比率で算出するのが原則です。たとえば60平米の自宅のうち15平米を教室として使用する場合、家賃の25%を経費計上できます。ただし、完全にプライベートと分離された専用スペースがあることが望ましく、リビングの一角をレッスン時だけ使用する場合は按分割合を控えめに設定する必要があります。税務調査では教室スペースの写真を求められることがあるため、レイアウト写真を年1回撮影しておくと安心です。
見落とされがちな経費項目として、通信費、教材費、研修費、交通費、保険料があります。インターネット回線の料金はオンラインレッスンに使用する割合で按分計上できます。教材費は生徒用ではなく講師が授業準備のために購入した教材が対象です。英語教授法のセミナーやTESOL資格取得費用も研修費として経費になります。また、自宅外にレッスン会場を借りている場合の交通費、施設賠償責任保険の保険料も忘れずに計上してください。経費の証拠書類(レシート、領収書、銀行明細)は7年間の保管義務があります。クレジットカード明細だけでは不十分で、何を購入したかがわかるレシートが必要です。freeeやマネーフォワードの自動仕訳機能を使うと、クレジットカード連携で自動記帳され、手作業を大幅に削減できます。
経費計上で特に注意が必要なのが、交際費と広告宣伝費の区分です。体験レッスン後の受講者との食事代は交際費として経費になりますが、個人事業主の場合は交際費に上限がないため全額計上可能です(法人は年間800万円の損金算入限度あり)。一方、チラシ印刷費、SNS広告費、ウェブサイト制作費は広告宣伝費として計上します。ウェブサイト制作費が20万円を超える場合は資産計上して5年で償却する必要がある点に注意してください。
英会話教室特有の経費として、海外渡航費の取り扱いがあります。英語力維持のための海外研修や、姉妹校訪問のための渡航費は事業経費として認められます。ただし、観光目的の渡航との按分が必要で、業務日程と観光日程を明確に区分し、業務日の割合分のみを経費計上します。出張報告書を作成しておくと税務調査時の説明がスムーズになります。TESOL資格取得のための海外留学費用も、教室運営に直接関連する研修費として経費計上可能です。
経費管理を効率化するためには、レシートの電子保存を導入することを強く推奨します。2024年1月以降、電子帳簿保存法により電子取引データの電子保存が義務化されました。紙のレシートもスマホアプリで撮影して電子保存することで、紙の保管スペースが不要になり、検索性も向上します。会計ソフトのスマホアプリ(freee、マネーフォワード)にはレシート撮影・自動仕訳機能があり、日々の経費記録を数秒で完了させることができます。
個人事業主の英会話教室で活用すべき節税策として、家族への給与支払い(青色事業専従者給与)があります。配偶者や家族が教室の事務作業やレッスン補助を行っている場合、適正な金額の給与を支払い、経費として計上できます。専従者給与は事前に税務署へ届出が必要で、給与額は業務内容と勤務時間に見合った金額でなければなりません。月額8〜15万円が目安で、年間96〜180万円の経費計上が可能です。ただし、専従者給与を支払うと配偶者控除が受けられなくなるため、どちらが有利かシミュレーションしてから判断してください。
経費計上の際に勘定科目の一貫性を保つことが確定申告をスムーズにするポイントです。同じ種類の支出を毎回同じ勘定科目で計上する習慣をつけると、年度間の比較が容易になり、経営分析の精度が上がります。教材費は「消耗品費」、広告費は「広告宣伝費」、通信費は「通信費」と決めたら、ブレずに統一してください。会計ソフトの自動仕訳機能を使うと、同一の取引先からの支出を自動で同じ科目に分類してくれるため、記帳の一貫性が自然に保たれます。
経費管理で見落としやすいのが車両関連費です。自家用車を教室への通勤やレッスン会場への移動に使用する場合、ガソリン代、駐車場代、自動車保険料、車検費用を事業使用割合で按分計上できます。走行距離の記録をつけると按分割合の算出が容易になり、税務調査時の説明にも役立ちます。月間走行距離のうち事業用が40%であれば、車両関連費の40%を経費にできます。